陰摩羅鬼(おんもらき)
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妖火 陰摩羅鬼(おんもらき) 妖火

「初て新たなる屍の氣変じて陰摩羅鬼となる」(蔵経)
「そのかたち鶴の如くして、色くろく目の光ともしびのごとく羽をふるひて鳴声たかし」(清尊録)

 故人の気が変化して生まれる妖怪で、生前の無念や怨念を込め、羽を震わせ非常に高い声で鳴くと云う。

 鶴のような容姿を持ち、頭部は人の顔をしている。その口からは先が幾重にも枝分かれした舌が伸び、目はゆらゆら揺れる炎のように光る。一見すると、老人の顔をした鶴のようである。
 また「鷺に似て色黒く、目が灯火のように光り、羽ばたきながら挙げる奇声は人の声の様である」とも伝えられ、一説には口から青い炎を吐くとも云われる。

 享保十七年に出版された『太平百物語』巻五「西京陰摩羅鬼の事」には、この妖怪と遭遇した山城国の男の話が載っており、様子を伺っていると頭の方から次第に消えていったと云う

「おんもらき」と云うのは不思議な語感である。当て字であったとしても何故これらの漢字が使われたのか。

陰:見えない隠れた部分
摩羅:梵語で障碍。僧侶の隠語として陰茎・男根
鬼:陰(をぬ)が訛ったとも。中国では人の亡霊の意

∴ 男の欲望を残した死者の妄念か


 この場合、この妖怪自身の成り立ちとして、鬼は中国での意味である<亡き者の魂>に近いと思われる。陰は古事記などで<ほと(女性の陰部)>としているのも妙な符号である。

 この文字の分解は少し気を衒っているかも知れないし、何故容姿が鳥なのか謎のままであるが、面白い結果、ではないだろうか。

(文責:河本@avel/カメヤマ)

・ 参考文献:今昔画図続百鬼
・ 属性:社寺
・ 出現地区:近畿地方,京都府
・ 小説など:『陰摩羅鬼の瑕』京極夏彦(講談社) 近刊
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2000.7.21 22:44