歯黒べったり(はぐろべったり)
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妖火 歯黒べったり(はぐろべったり) 妖火

 昔は嫁入りすると歯を鉄漿(かね)で黒く染めていた。そう、お歯黒である。この黒い歯を剥き出しにしてニタリと嗤われると、それだけでも不気味であるとは思わないだろうか?

 歯黒べったりは、黄昏のひとけのない神社やお寺に、また稀に家の中にも現れ、美しい着物を着ていたり花嫁衣装の場合もあるらしい。但し決まって顔だけは隠している。通りかかる人が親切心や好奇心から声をかけると、待ちかねたように振り返り、自分の顔を見せるのだが――。
 これが所謂のっぺらぼう。驚いていると白い顔の下がパックリと割れ、お歯黒をべったりと塗った歯を露わにし、ニタニタと嗤う。綺麗な衣装と奇怪な顔とのギャップで、大抵の者は腰を抜かしてしまったと言われている。

 歯黒べったりの正体は「狐狸貉の類である」とか「お歯黒をつけたくなかった女の妄念」、また「結婚前に亡くなった女の霊では」と、なかなか定まらない。絵本百物語で竹原春泉が描いた歯黒べったりは角隠しをしている。角隠しは婚礼の時に被るというのは周知のことだが、昔は浄土真宗門徒の女性が寺参りの時に用いたと言われており、こちらからのアプローチも必要かも知れない。

(文責:カメヤマ)

・ 参考文献:絵本百物語
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2000.7.21 22:41