鳴釜(なりかま)
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妖火 鳴釜(なりかま) 妖火

 湯が沸くと被せた蓋が動く。そのときの音が鳴くようであると、その翌日は決まって雨が降ったという。この怪異を起こした釜は、駿府に住む農夫が掘り起こした石櫃に入っており、巡り巡って京都のある住職の手に渡り、確認されたと伝えられている。

 鳥山石燕は鳴釜の容姿を、全身(肚も)毛むくじゃらの猿が釜を被ったように描いているが、尻尾はなく、鉤爪のような足が特徴的だ。また釜の底部から鹿の角のようなものがつきだしてい、それが炎のようにも見える。

 『吉備津の釜』(上田秋成)には、湯が沸いたときの音で吉凶を判断する釜が登場。巫女らが集まり祝詞をあげる中、釜を焚き、牛の咆哮に似た音は吉兆、鳴りが悪いのは凶兆と判断された。これを「吉備津の御釜祓(みかまばらい)」と紹介している。
 またこの吉備津神社の釜は差渡四尺余(直径約120cm)と言われ、中に一合ほどの米を入れ、塩水で清める。そして松葉で焚き付けると鈴のような音が鳴り始め、徐徐に高く響きわたる。やがて塩水を打つと音が止んだということらしい。
 現在でも御釜祓の儀式は行われている。但し神官や巫女は託宣をせず、氏子や信者が、音の高低大小長短を聴き、古来からの伝承に照らし合わせ、自ら吉凶を占う。

 『耳嚢』『諸国里人談』にも鳴釜と思しき現象が見られる。一説には「未使用の女褌をかぶせると鳴り止む」とも。また白澤が黄帝に語ったと言われる「天下の妖異鬼神」の中にも数えられているが、石燕の描く姿とは別のようだ。

(文責:カメヤマ/D)

・ 参考文献:百器徒然袋,もっと知りたい 神と仏の信仰事典2
・ 属性:社寺,器物
・ 出現地区:近畿地方,京都府
・ 小説など:百器徒然袋第一番 鳴釜 〜薔薇十字探偵の憂鬱〜』京極夏彦(「メフィスト」1998.12月増刊号),『吉備津の釜』上田秋成(「雨月物語」)
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2000.7.21 22:43